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公図は、明治時代に先人達が、苦心の末に完成させた図面です。しかし、現地を測量した図面に公図を重ねてみても、合いそうで合いません。それは、当時の測量技術や使用した機器の性能が、低かったことが原因ですが、測量したことは事実です。この公図を、有効に利用できる手法があります。幾何学的手法のアフィン変換を利用すれば、公図のゆがみや伸縮を調整し、現地に当てはめることができ、不明な境界点があれば復元することが可能となります。
別の利用方法としては、境界について間違った思い込みが無かったかを確認する意味においても、利用できると思います。
※アフィン変換とは、変換後も直線は直線で、平行線は平行のまま保たれるなどに加えて、縦方向と横方向とで拡大又は縮小の倍率を変えて、正方形が矩形になるような変形方式です。
事例によって、説明をしていきます。
(下記の「公図」・「測量図」・「重ね図」・「アフィン変換図」をクリックすると図面が表示されます。)
ここに載せた測量図は、当職が測量作成したものではないのですが、とある事から関係がある為、事例に採用しました。「公図」は、「測量図」と比較しやすいように、縮尺を1/600から1/1,000に縮小してあります。「重ね図」のとおり、公図と測量図を重ね合わせてみても、うまく合いません。そこでアフィン変換を利用するわけですが、公図と測量図の、同一点と看做せる点を準拠点として選択します。1・K1,2・K2,3・K3,4・K4,5・K5,6・K6,7・K7がそれぞれの準拠点となりますが、この7点でアフィン変換を掛けると、K4と変換された点との距離が異常に大きい為、K4を除いた1・K1,2・K2,3・K3,5・K5,6・K6,7・K7の6点で、アフィン変換を掛けます。この6点でアフィン変換を掛けると、公図は測量図の形状に近づき、縦・横方向の伸縮率も分かってきます。
アフィン変換図の、変換された各A点と、各K点との距離を、誤差とは呼ばずに残差と呼んでいます。
アフィン変換図で、準拠点として選択した各K点に対して、変換された各A点は、どういう位置に配置されるのかを見てみます。
尚、アフィン変換計算書については省略し、変換後について説明をしていきます。 |
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残 差 表
測点⇔変換点 |
凾w(残差) |
凾x(残差) |
K1⇔A1 |
0.078 |
-0.159 |
K2⇔A2 |
0.232 |
0.242 |
K3⇔A3 |
0.268 |
-0.193 |
K5⇔A5 |
0.040 |
0.158 |
K6⇔A6 |
-0.279 |
0.032 |
K7⇔A7 |
-0.340 |
-0.079 |
合計(K4⇔A4を除く) |
-0.001 |
0.001 |
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凾w(残差)の合計で-0.001mm、凾x(残差)の合計で0.001mm差が出ましたが、±0となるように配置されます。
因みに、類似の変換方法にヘルマート変換がありますが、X及びYの残差の合計は、同じく±0となるように配置されます。
次に、この残差から「2次元の標準偏差」を求めます。標準偏差は「σ(シグマ)」で表現します。計算過程を事項のとおり、表にまとめてみました。計算は、シビアにエクセルの真数で行っています。 |
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測点⇔変換点 |
凾w^2(残差の2乗) |
凾x^2(残差の2乗) |
K1⇔A1 |
0.006084 |
0.025281 |
K2⇔A2 |
0.053824 |
0.058564 |
K3⇔A3 |
0.071824 |
0.037249 |
K5⇔A5 |
0.001600 |
0.024964 |
K6⇔A6
| 0.077841 |
0.001024 |
K7⇔A7 |
0.115600 |
0.006241 |
這凾 ^2/(6-1)
這凾 ^2/(6-1) |
0.0653546 |
0.0306646 |
σx、σy |
0.255645457616605 |
0.175113106305598 |
σ x^2/2 σ y^2/2 |
0.0326773 |
0.0153323 |
σ |
0.219110930809030 |
σ×2.45 |
0.536821780482123 |
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σx=√(這凾録2/(n-1))X軸の標準偏差
=√((0.078)^2+……+(-0.340)^2)/(6-1))≒0.2556
σy=√(這凾竸2/(n-1))Y軸の標準偏差
=√((-0.159)^2+……+(-0.079)^2)/(6-1))≒0.1751
σ=√(σx^2/2+σy^2/2)全体の標準偏差(2次元標準偏差)
≒0.219
この標準偏差0.219mによって、境界の存在する範囲が、確率で分かってきます。統計学では、伝統的に「95%の確率」となっているようですので、95%は「2次元標準偏差」の2.45倍になることから、
0.219m×2.45倍≒0.537m
つまり、標準偏差0.219mの2.45倍である0.537mを半径とした円の中に、境界が存在する確率は95%となります。アフィン変換図で、K4を除いた各K点は、復元した各A点を円の中心とし、0.537mを半径とした円の中に納まっています。K4は、どのようにして決められた境界なのか分かりませんが、A4と異常に離れていることが分かってきます。
伸縮率は、X軸(縦方向)1.005631・Y軸(横方向)1.059211となります。つまり、測量図が公図よりも、この倍数だけ、大きくなっている事が分かります。言い換えれば、公図が縦横、別々の伸縮率で、縮んでいた事が分かってきます。
参考までに、平均二乗誤差では、数値はどのようになるか求めてみます。平均二乗誤差とは、測量系では別名で言うと、「1次元の標準偏差」・「ベクトル標準偏差」の事で、以前の標準偏差と言うか、昔の標準偏差です。
※ σsは平均二乗誤差
σs=√(狽顛2/(n-1))
計算過程を事項のとおり、表にまとめてみました。計算は、エクセルの真数で行っています。 |
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測点⇔変換点 |
√凾w^2+凾x^2
ベクトル(斜辺) |
凾w^2+凾x^2
ベクトルの2乗 |
K1⇔A1 |
0.177101665717739 |
0.0313649999999979 |
K2⇔A2 |
0.335243195307518 |
0.1123879999999940 |
K3⇔A3 |
0.330262017192378 |
0.1090729999999790 |
K5⇔A5 |
0.162984661855048 |
0.0265640000000043 |
K6⇔A6
| 0.280829129543210 |
0.0788649999999968 |
K7⇔A7 |
0.349057301886127 |
0.1218410000000230 |
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狽顛2/6-1 |
0.0960191999999990 |
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σs |
0.3098696500143230 |
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ここで、標準偏差と平均二乗誤差との割合はどのくらいなのか、エクセルの真数同士で計算してみると
0.3098696500143230 ÷ 0.219110930809030
=1.41421356237310=√2
平均二乗誤差は、標準偏差の丁度、√2倍になります。 |
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以上が、アフィン変換を利用した公図からの復元手法と、標準偏差の計算過程を示してみました。
ここで、注意するべきことがあります。今回の事例では1番と2番の原始筆界がある図面でしたが、もし、1番1と1番2の分筆された筆界の場合は、公図の分筆線を採用してはなりません。何故ならば、公図の分筆線は後から記入されているからです。例えば、一方に合わせて記入したのか、按分で記入したのか、目検討で記入したのか等、不明だからです。
実務においては、分筆申告図や地積測量図面等、他の資料を検討・分析する必要が出てくる事も多々あるでしょうが、公図と整合が上手くいかないからといって、一概に重視しない事があれば、時期尚早といえるのではないでしょうか。明治時代の先人たちが、実際に測った図面なのですから。 |
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